欠乏感で集中力を高め仕事の質を上げる

先日とある企業で管理職研修を実施し、そのなかで「部下の仕事が計画通りに進行しているかチェックすることができていますか」というアンケートを実施したところ、57%の方が「できていない」という回答をされました。仕事においてあまりに細かくチェックをし過ぎると本人のやる気をそぐリスクがありますが、それでも最低限のチェックは必要で、そのためには適切な締め切り(社内納期)の設定が重要です。

次のような実験結果があります。

実験の参加者たちは、「集合前の約4時間は何も食べないように」と指示され、正午に集合させられます。集合後、参加者の半分には昼食が与えられます。その後、全参加者はスクリーンに一瞬だけ(0.03秒)表示される単語を判読するというテストを受けます。
では、この実験結果はどうだったでしょう?
昼食をとらなかった参加者のほうが単語の判読率が悪かった(空腹のせいで集中できなかった)、と思うかもしれませんが、実際には単語の判読率は昼食の有無と関係がなく、全参加者でほぼ一定でした。しかしながらただ一つ違うことが。それは、食べ物に関係する単語だけは昼食をとらなかった参加者のほうが判読率が高かったのです。

この実験が示唆するのは欠乏感は集中力をもたらす、ということです。欠乏感は人の心を占領します。何かが「足りない」と人はそのことで頭がいっぱいになり、いつの間にか満たされていない欲求のことばかり考えてしまうようになります。そして、たとえば空腹の人は食べ物のことで頭がいっぱいで「ケーキ」といった単語を素早く判読できるように、無意識的に生まれた集中力によって脳が機械的に反応するようになるのです。

また別の実験では、大学生の被験者を2つのグループに分け、各メンバーに対して合計3つの小論文を渡し、誤字や脱字をチェックする校正作業をさせました。その際、片方のグループには3週間の締切を設定し、期限の最後に、校正した小論文を3つまとめて提出するよう指示。もう片方のグループは、3週間で3つの小論文を校正することは同じですが、より時間的な欠乏感を与えるため毎週1本ずつ提出するように指示。
結果、より正確な校正作業を行ったグループはどちらだったでしょうか?一度の大きな締め切りがあるほうか、小さな締め切りが頻繁にあるほうか。
正解は後者のグループでした。締め切りの回数が多かったにもかかわらず、このグループのメンバーは期限をよく守り、誤字や脱字の発見量も指摘の正確さも、前者のグループを上回っていたのです。

上記2つの実験から言えることは、もし同じ時期に同じ仕事をするのであれば、締め切りを細かく設定したほうが人の集中力は高まり、仕事の能率や正確さは上がるということです。 部下に任せることはもちろん大事ですが、任せっぱなしはよくありません。部下の仕事の質を高めるには計画段階のチェックはさることながら実行段階におけるチェックと、時間的な欠乏感を伴う締め切りの設定が重要で、そのことを管理職の方々にはご理解いただく必要があるでしょう。少しでもご参考になれば幸いです。

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