従業員の持つ知識やノウハウなどが属人化してしまっている、という問題は、ものづくりなど職人的なスキルが求められる職業に限らず、多くの企業において見られます。それを防ぐには、業務を通じて得た知識・ノウハウなどを組織全体で共有し、誰でも活用できる状態にしておくこと(ナレッジ・マネジメント)が必要です。 知識経営の生みの親として知られている野中郁次郎氏は、「社員が持つ(作り出した)知識を会社全体の知識として活用していくことが、会社の連続的なイノベーションを生み出す鍵になっている」とし、ナレッジ・マネジメントの枠組みとしてSECIモデルと呼ばれるものを提唱しました。社員が持つ知識には暗黙知(うまく言葉で表現できないもの)と形式知(言葉や図で表現できるもの)とがあり、「暗黙知を形式知に変える」「形式知を暗黙知に変える」ということを継続的に行うというものです。
共同化(Socialization)
ある人の暗黙知を他の人に伝え暗黙知を共有することをいい、ブレーンストーミングなどを通じ、ある人が持つボンヤリとしたアイデア(暗黙知)をとことん話し合い、他の人がイメージ的に理解するプロセス。
表出化(Externalization)
皆で共有した暗黙知を誰でも理解できるような形式知にすることをいい、メンバーで共有したイメージを言葉などで表現(ex. スマートなデザイン、流線型のデザイン…など、そのイメージをコンセプト化)するプロセス。
連結化(Combination)
誰でも理解できるような形に変換した形式知を具体的な言葉やモノとしての形式知へ変換することをいい、表出化させた形式知からさらに新しい形式知を作り出す(ex. スマートなデザインを具体的な形にするために新たな成形技術を試行錯誤して生み出す)プロセス。
内面化(Internalization)
具体的な言葉やモノとしての形式知から新しい暗黙知に変えていくことをいい、お客様からの意見や要望から問題点や改良点を探り出し、ボンヤリとしたアイデアに変えるプロセス。
ナレッジ・マネジメントでは、上記SECIのプロセスを管理すると同時に、このプロセスが行われる「場」を創造することが重要であるとされています。アーティスト性の強い社員を多く抱えるある会社では、「品質を保てない」「ノウハウを承継できていない」「適正な評価ができない」などの問題を抱え、それを解決するために上記プロセスに応じた「場」を多く設けることにしました。そして自分たちが提供する商品のアップデートを図ろうしています。上記4つのプロセスを循環させることが、知識やノウハウの属人化を防ぐだけでなく、さらに高いレベルの知識やノウハウを生み出す(現場創発型のイノベーションの)源となります。