とある会社(A社とB社)のM&A成約式。
※本記事は当人たちからの承諾を得ています。
この成約式はとても素晴らしいものでした。
双方にとって、会社が存続発展していくための新たなスタートとも言える場。
大変感動的なシーンもあり、なかには涙を流す人さえいました。
双方の社長、M&Aアドバイザー、司法書士など参加者が多く、また、成約式の内容が重要物品授受や決済など厳かなものであるがゆえに最初はやや固い雰囲気でしたが、譲受側のA社長のお人柄や計らいもあり、時間の経過とともにそれも段々と和んでいきました。
B社長がM&Aに至ったワケ
B社長の会社は自動車部品修理業。
B社長は5年以上も前から会社を引き受けてくれる相手を探していました。
最初は公的機関に依頼されたそうです。
ですが、会社を引き受けてくれるところどころか、興味を持ってくれる会社さえ一向に見つからず。
B社長の会社は決して業績が悪いわけではありません。
売上規模こそそこまで大きくはないものの、ここ数年は営業黒字、自己資本比率は約60%、借入もほとんどありません。
無駄な経費を使わず、その分を少しでも従業員に還元しようと自分の役員報酬を抑え、真面目に、そして懸命に会社経営を続けてきた社長です。
ですが、後継者がいません。
厳密にいえば、ご子息ご息女はいるものの、ご子息は10年ほど前に不慮の事故に遭い会社を引き継ぐことができず、また、ご息女は主婦であるがゆえ本人にその意志が無く、親族内承継はできない。
従業員に継がせることも検討したそうですが、本人の希望などもあり、社内承継もできない。
そんな折に、今まで会社の事務を務めてきた社長の奥様が病気を患ってしまいます。
奥様の看病をしながら、社長として会社経営を続け、事業承継は遅々として進まない。
社長は、このまま会社を清算するしかない・・・。
そう考えていたそうです。
たまたまM&A会社を知る
そのようなときに、とあるM&Aアドバイザリー会社とB社長がたまたま出会います。
お盆に親戚一同で集まると、数年ぶりに又甥(甥の子ども)の姿が。
「お前はいま何の仕事してるんだ?」
「俺?俺は今M&Aの会社で働いてるよ」
「M&A・・・?そうか、そうなのか。
いや実はな・・・」
又甥に事情を話すと、盆明け早々にB社長のもとを担当者が訪れます。
とは言っても、
(どうせダメだろうけどな・・・)
当初は全く期待していなかったそうです。
それは夏も終わる頃の話です。
そこから引き受け手としてふさわしい企業を探すべく、厳重な情報管理のもと広範なネットワークを駆使し、企業のリストアップと打診が始まります。
「事業を引き受けて欲しいという会社があります。財務内容は健全で、社長も大変真面目な方です」
そのような情報が我々に入ってきたため、以前からM&Aを検討していた上記のA社長にすぐさま連絡し、提案します。
A社はなぜB社に興味を持ったか
A社は中古車販売業として東北地方でもトップクラスの売上と販売台数を誇る会社で複数店舗を展開しています。
元々A社はB社商圏への出店を計画していたことに加え、自社ではまだ内製化していない”ある修理技術”をB社が保有していることで、自社の成長戦略にも繋がるとB社に興味を抱きます。
B社長もA社が興味を示してくれたことに大変喜び、「これ以上の無いお相手」と断言。
そして成約式
B社は販路拡大が期待でき、A社にとってもシナジーがあるということで、基本合意契約を締結。
上述の通りB社長は大変真面目な方で、財務内容も健全。
交渉 、DD(デューデリジェンス)、調整等は順調に進みます。
交渉において論点になることがさほど多くなく、M&Aにしては約3ヵ月という短い期間で無事に成約式(最終契約)にまで至ることができました。
成約式では、病気で療養中のために来られなかったB社長の奥様からの手紙が読み上げられました。
そのなかに
「何年も何年も検討して、もう会社を潰すしかない。もうダメだと思っていました。ところが、諦めかけていたときにこういったお話を頂戴できて、無事に今日を迎えられて、本当に本当に嬉しく思います」
という言葉がありました。
その言葉を聞いていたときのB社長の表情は忘れられません。
後継者不足は社会問題
最近はテレビや新聞でもよく取り上げられるので周知のことでありますが、帝国データバンクの「後継者問題に関する企業の実態調査」によれば、企業の66.5%、実に3分の2にもあたる企業が後継者不在という状況に陥っています。
とあるM&A会社によれば、とりわけ年商10億円以下の企業のうち約70%には後継者がいないということも言われています。
後継者がいなければどうするか。
選択肢は「廃業(清算等)する」か「第三者に譲渡する」か「IPO」。
この3つしか選択肢はありません。
ですが、多くの企業においてIPOは困難でしょう。
とすると廃業か第三者に譲渡するしかない。
しかしながら、廃業してしまうことはそこで働く従業員(とその家族)、取引先、地域経済にとって大変なデメリットです。
さらに清算を選択した場合には、企業が保有していた在庫や土地は半値、建物や機械は0と評価されることも珍しくなく、その分(資産の処分)で借入金の返済をまかなえず、清算したとしても債務保証している社長自身が今後も借入金を返済していく…なんて状況すらあり得ます。
親族内承継、そして社内承継。
当然、まずはそこを検討される方が多いかと思います。
個人的にはそれができるならそれが一番だと思います。
一方で、保証の問題や、後継者候補の資質不足、やる気の問題、社内環境、将来の事業性などから親族内承継、社内承継が困難であることも多く、早い段階から第三者への譲渡も選択肢の一つに入れておくに越したことはありません。
時間もかかります。
かつては「身売り」や「マネーゲーム」といったマイナスイメージを持たれることも多かったですが、そうではありません。
今回の件もそう、M&Aは企業が継続発展していくための事業戦略、選択肢の一つ です。
まだまだ事業を継続していけるにもかかわらず後継者がいないという理由で企業が無くなってしまうことのないよう、我々も企業の継続発展に今後も貢献していきたい、そう思ったこの事例でした。