自分が不要になることがゴール

ビジネスの現場において、優秀な人ほど
「自分と同じように動ける人があと数人いたら・・・」
「部下には自分のようになってほしい」 と考えがちです。
しかし、このような考えは部下のモチベーションや能力を正しく評価することをしないで部下に対して不満を抱いてしまう原因となるだけでなく、組織に対してもマイナスの影響を及ぼすことがあります。

A社長とB社長の違い

長年続くある食品会社では、A社長という人物が卓越した行動力と実行力を持ち、経験豊富な経営者として、従業員たちに事細かく厳しい指導をしていました。
従業員たちはA社長の指示を待ち、「A社長ならどうするか」を基準に行動していましたが、多くの従業員たちは厳格な管理の下で失敗を恐れ、「指示通りに動けば責任は自分にない」という甘えの意識を持っているのが実態でした。
その後、B氏が新社長に就任。B社長は控えめながらも人徳と優しさを備えた人でした。
就任当初はA社長と比べて経験不足であることから「B社長でこの会社は大丈夫だろうか」と不安視する声もありましたが、就任して2年目以降、その会社の業績は向上していきました。
それまで従業員たちは「A社長になんて言われるか」「A社長が望むことはなにか」と顔色を伺いながら仕事をしていたのが、「自分がどう考え、何をすべきか」を基準に自律的に行動するようになったことから、品質改善や企画開発など、現場力の向上に繋がっていったのです。

自らの経験からの教訓

私も若かりし頃、自分が優秀だと思っていたわけではありませんが、部下や後輩に対し「なぜこうしないのか」「なぜできないのか」と苛立ち、つい口出しや手出しをし、自分の思う通りに相手を動かそうとすることが多々ありました。
当時、私の上司は理論と実践の両方に長けたとても優秀な方で、私は常にその上司の真似をし、背中を追うことばかりしていて、「上司になんと言われるか」「上司から注意や指摘をされないように」を基準に仕事をしており、その姿勢を自分の部下や後輩にも求めていたのです。
しかし、ある日上司から言われた言葉で私はその姿勢を改めるようになりました。
「君は顧客のことを考えていない。私からどう見られるかばかりを気にしていて、顧客第一の姿勢が薄れているよ。」
「私の背中を追っているようではダメだね。越さないと。部下や後輩にも、自分を超えてほしいという気持ちを持って接しなさい。」

コピーを作ることの危険性と育成の本質

優れた経営者であっても、自分のコピーを作ろうとすることは望ましくありません。
これは部下の成長を阻害し、多様性を失わせるだけでなく、組織全体を硬直化させます。スポーツや芸術の世界を見ても、誰かのコピーがオリジナルを超えることは稀です。
コピーはあくまでも「オリジナルの劣化版」なのです。
育成のゴールは「自分が不要になること」です。
自分の知識やスキルを惜しみなく共有し、部下が自分の判断で行動し、軌道修正できるようになれば、育成は成功と言えます。
そのためにはティーチングとコーチングの使い分けや、失敗を恐れない環境の構築などを通じて、部下一人ひとりの個性を引き出し、自主性を育むリーダーシップが求められます。

育成とは、自分が不要になる状態をつくること。これこそが持続可能な成長を実現する鍵でしょう。

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