丸投げ―――この言葉に、私はどちらかと言えばネガティブなイメージを抱いていました。
丸投げと聞くと、自分の仕事をそのまま相手に押し付ける、責任を放棄する、そんな印象が強かったからです。
ところが先日、「任せるコツ」の著者である山本渉氏のお話を聞く機会があり、その考えが一変しました。
山本氏は、良くないのはあくまでも「間違った丸投げ」であり、「正しい丸投げ」は部下の成長を促し組織全体の発展に繋がると述べ、実際、著書の中では「正しい丸投げ」と「間違った丸投げ」について次のように記しています。
間違った丸投げ | ・自分が楽になることだけを考える ・目的や意義を伝えず、ただ作業をさせる ・相手のやる気や忙しさなどの状況を確認しない ・命令として押しつける ・誰に任せるか吟味せず、やってくれれば誰でもいいと考える ・相手の動機づけをしない ・感謝や評価などのフォローがない |
正しい丸投げ | ・相手の身になって考える ・その依頼がどのような役に立つか、目的を伝えている ・相手の余力の配慮がある ・断ることができる余白がある ・相手にとって適度なチャレンジがある ・プレッシャーと期待が過剰でない ・感謝の気持ちがある |
リーダーシップ論やコーチングを意識している方は、上記の「正しい丸投げ」に近い行動を自然と取っているかもしれません。
しかし、本当に「丸投げ」できているでしょうか?
「任せる」と言いながら、途中で口を出したり、部下の進め方を修正したりしていないでしょうか?
私自身もそうですが、仕事を任せたものの、進める過程を見ていると心配になりつい細かく進捗を確認したり、自分が想定している進め方と異なる場合は「なぜそうしているのか」「こちらの方法のほうが適切ではないか」と横から口を出してしまったり、時には「ここまでやってくれてありがとう、後はこっちで引き受けるから、もう大丈夫」と、一度与えた仕事を取り上げたりしてしまうことがあります。
山本氏によれば、それは「中途半端な丸投げ」であり、部下のやる気を削ぎ、主体性を奪い、結果として指示待ち人間を生み出してしまう、最もやってはいけないことだそうです。
実際、私の関与先においても、社員が自分の意見で動くのではなく、常に社長の顔色をうかがい、社長が持っているであろう正解を探し当てようとしながら仕事を進めているケースが見られます。
このような状況では、会社が社長の限界を超えて成長することは難しいでしょう。
とは言え、いきなり全てを丸投げすることが難しい場合もあります。そのようなときには、以下のような工夫が効果的です。
目的とゴールを明確に伝える:仕事の意義や期待される成果をしっかり共有する
任せる範囲を明確にする:絶対に外せない部分は前提条件として伝える
進捗を把握するためのマイルストーンを設定する:定期的なチェックポイントを設け、大きな損害を防ぐ
さらには、失敗を許容する姿勢も重要です。
人は、自分で考え、決定し、行動することで成長します。
たとえ失敗しても、それを学びの機会と捉え、次に繋げるサポートを行うことが上に立つ者の役割です。
正しい丸投げは、部下の成長を促進し、組織の可能性を広げる強力な手段です。一歩踏み出して、任せる勇気を持つことが大切です。